母は音痴

思い出

母は音痴だった。
娘が小5になった頃から、軽い認知症になった母と一緒に
住み始めしばらくしてカラオケに遊びに行った。

母は詩吟を10年も習っており何度か舞台に上がっていたが、大会の時一人での発表があると、
「今回はいいねー」と言われていたのにあがってしまうのだそう。

小さい頃から歌うのが好きだと言っていた。
「でもね、おじいちゃんが ”うるさい“って怒鳴るんだよ。」と
悲しそうに言っていたことがあった。

カラオケでは、娘がひとしきり歌を歌い満喫した後ようやく母の番になった。
母の得意技はもちろん演歌だ。
美空ひばりの「川の流れのように」を歌いだしたその瞬間から、娘と二人の爆笑が始まった。
我慢しようとしてもムリムリ。
笑って笑ってお腹がよじれるってこれだね。
と顔を見合わせては娘と二人笑い合った。

母は自分の世界に入り込んでいるのようで、
一向に私たちのことに関心がないのは幸いだった。

あ~ぁ~~かわ~の..なが..れ..のよ..に~~~
母が歌っている間中笑いは止まらなかった。
こんなに笑っているのは何年ぶりだろうかと言うくらい笑った。

娘はどんなに悲しいことがあってもこの歌を聞いたら笑うことができるね。
と変な関心の仕方をした。

何度かカラオケへ行って笑い合ったが、淋しいことにその母ももういない。
娘はもう少しバッピとカラオケへ行っておけば良かった。と
楽しい思い出をくれた母を時々懐かしんでいる。

悲しいことがあった日に思い出してみた。
母の姿と、伴奏とあの上、下に絡まる外れる音程の歌。
一気に笑えた。
こんなに悲しくっても笑えるんだね。と

私も母との思い出に、感謝している。