私の1番の夏の思い出

思い出

小学5年生で転校した町は茂辺地と言う変わった名前の田舎町です。
北海道函館の近くの小さな海辺の田舎町、
あのへのへのもへじの茂辺地でちょっと笑ってしまった。
小さな町へ引っ越したので父の務める営林署の課長さんが来たと随分と良くしてもらったんです。

ある夏の朝、思いがけないものが届いたの。
それはバケツ一杯のアワビ。大きさもまぁ普通ぐらいのものがバケツ一杯に入っている!
それは私たち家族を喜ばせてくれ、どちらを向いてもニコニコ顔。

その頃はお寿司を食べるのも自宅で作るのが一般的だったから、新鮮な甘えび、ホタテ、
イカやホッキ貝、そして少なめのアワビが薄ーく切ったものが、
たまーにでることもあったけどやはりその頃でも、
もう漁師以外はアワビやウニは取っちゃいけないという決まりになっていたからね。
その日はとても喜んだの。
暑い夏の日がとても涼しく感じたくらい。

さてどうしようかと父がバケツを台所に置いて行ってくれた後、
母はキュキュと小さめのアワビを貝殻から外して塩でもみ「食べてごらん」と
包丁も入れずそのまま手づかみで私の手にわたしてくれたの。
だいじにかじりつく。
そのおいしさは、今までのお寿司では経験がない味わいで「美味しい美味しい」とほおばる私に、
母はそのあともうひとつ同じようにお塩でもんで渡してくれたの。
忘れられない、一生忘れたくない美味しさだった。

子供が生まれ小学生くらいになった頃、里帰りしたある夏の日小さめのアワビを3つ買ってきて、
同じように娘に2つ食べさせた。
同じように娘も感激し、「美味しい。ママも食べてママも食べて。」と言ったが、
残りの一つは夕食のお寿司の種のひとつになった。
あの忘れたくない感動を娘にも伝えられた満足感で私は幸せに満ちたりた気分だったの。

歯が丈夫な皆様でありましたらお安くなった時、大きめに切ってかじりついてみるのも
お勧めな食べ方です。